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            JAPAN ECONOMIC REPORT
               10.03.14(通巻604号)

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「日本経済最前線の視点から、理論ではなかなか学べない日本経済の現状や見通
しを分かりやすく説明する無料マガジン」として1998年より頻繁に発行を続
けておりましたが、事情により2006年より米国に在住しております。
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日本では「出る杭は打たれる」という言葉は一般的である。だからこそ、「能あ
る鷹は爪を隠す」などともよく言われる。一方、米国はその正反対のカルチャー
を有しているというイメージを日本人に持たれがちであろう。確かに、当地米国
にて「能ある鷹が爪を隠す」ことは少ない。しかし、「出る杭は打たれる」(も
ちろん、本当に才能のある人はこの洗礼を打ち破ってさらに成長するのだが)。
ある程度自分が優位にたっている間は、目下の者に対して極めて寛大な態度をと
るが、自らの特権が脅かされそうになると、突如保守的になり、時に攻撃的とな
る。トヨタ問題もまたしかり。本件では権限委譲(日本の親会社が現地子会社に
リコール判断の権限を委譲していないこと)が問題となったが、これはアメリカ
発で声高に必要性が叫ばれた内部統制整備、つまり、エンロン等の不正会計事件
に端を発して強化が求められた中央集権的なリスクコントロール整備という理想
像からは逆行している。何事も万能薬は無い。ただ、「勝って兜の緒を締めよ」
という言葉は万国共通なのかもしれない。

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■消費税議論に必要なものとは
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先週の日経新聞の「経済教室」の誌面では、「消費税増税を考える」との題目に
て、月曜日から金曜日までの毎日、識者の論説が載せられていた。連載が始まっ
た時には、五者五様の論調が紹介されるのかなと思っていたのだが、これが驚く
ばかりに均質で、対立するようなポイントもなく、ほぼ同じような内容であった。
ある意味、あらかたの論点は出尽くされ、これ以上に議論を進めていくより、も
はや意思決定が必要なステージになっていると思わせることをこの連載は意図し
ているのではないか(意図的なキャンペーン?)とも思えてしまう。

さて、彼らの論説を、私なりの解釈も加えて集約すると、以下のようになる。

         ・       ・       ・

(1)政府債務残高は過去に例のない危機的水準に達している。現状のままでは
財政赤字が膨らむばかりであり、財政再建が必須であることは言うまでもない。
財政再建のためには先ずは歳出削減をと国民は期待するが、先の「事業仕分け」
でも明らかになった通り、歳出削減余地は限定的である。歳出増の原因は景気対
策のための無駄な公共投資というイメージがあるが、実態はそうではなく、最近
10年間の歳出増の要因分析をすると、社会保障関係費の増加が大部分を占めて
いる(こういった構造変化の要因の方が大きいので、「無駄な公共投資削減」の
努力だけでは、財政赤字問題は解決しない)。そして、高齢化社会の更なる進行
が予想される中、この歳出の構造変化傾向は今後も間違い無く続くはずであり、
「増税無き財政再建」は幻想に近く、現実に目を向け、増税による持続的財政再
建軌道に乗せることを目指すべきであろう。

(2)一方、増税による歳入確保に目を向けた時、日本の法人税は既にOECD
諸国中で最高税率で、企業の国際競争力維持・向上のためには、寧ろ税率引下げ
が急務な課題であり、法人税率引下げにより企業業績を向上させ、税収増を目指
す努力が必要である(従い、法人税収の短期的な増加は期待できない)。所得税
についても、将来的な財政再建の付けを負う勤労者世代のみが負担するものであ
り、抜本改定は難しい。こうなると、大胆な改革実行の余地があり、かつ、特定
の世代に偏ることなく、広く公平な税負担となれば、消費税増税しか道はない。
もちろん、低所得者(或いは、社会的弱者)への配慮は必要であり、食料品・医
薬品等の特定品目は軽減税率を適用(或いは、免税や税率据え置き)とすべきで
あろう。

(3)ただし、政治や行政に対する不信がここまで蔓延してしまっている以上、
国民の「増税」アレルギーは増幅する一方である。従い、国民の理解を得るには、
引上げ分を原則、年金・介護・医療などに充当するという福祉目的税とすべきで
あるし、制度の将来像、明確なビジョンを示さなければならない。この消費税率
引上げのタイミングがしばしば議論となり、「景気動向次第」とよく説明される
が、究極的には、景気動向ではなく、社会保障の将来増を明確にする政府自らの
リーダーシップ次第なのではないか。

         ・       ・       ・

とにもかくにも、直接税(法人税や個人所得税)に財源を大きく依拠する日本の
税制は他の先進諸国(除、米国)と比べると、かなり特殊な構造になっており、
特に法人税率の高さは異常なものである(先に「除、米国」と書いたのは、米国
も日本に次いで法人税率が高く、また、連邦税の中に主財源となり得る間接税収
がなく直接税比率が極めて高いという点で、日本と同様に特殊で、抜本改革の必
要性が問われているもう一つの国であるためである)。企業の価値は税引後の獲
得されたキャッシュで測られるが、どんなに売上を伸ばし、売上原価や営業費を
削減しようと、税コストが高いと、他国の企業とは全く勝負にならないのは、私
が肌で感じていることであり、国際競争力がなければ、法人税のもととなる法人
所得の創出にもつながらない。

少子・高齢化の急速な進行という大きな構造変化にも真摯に向き合うべきだろう。
税制というのは、社会の構造変化に合うように修正を図っていかねばならない。
高度成長を前提とし、数十年も前に設計された税制が、今の時代に合っていない
のは明白であろう。税負担の増減は、言ってみれば世代間の所得や財源再配分に
他ならない(もちろん、行政に無駄がないという前提付きではあるが)ものであ
る。つまり、消費税を払っても、等価の社会保障サービスが拡充されるというこ
とが約束されるのであれば、全世代通算で見ればゼロサムの世界である。例えば、
金融資産の取り崩しと年金収入にて生活している高齢者世代は消費税がアップす
れば、税負担が増すが、この税負担により持続的な社会保障サービスが維持でき、
孫の世代にも引継がれることが明確となれば、当該高齢者世代の消費は日本を担
う将来世代への最高の贈り物となる。

もちろん、細かな議論も必要だろうが、机上の空論よりも実践に移すタイミング
は既に到来している。消費税議論と決断には、長期的な視野を持ち、大局を捉え
ることのできる強いリーダーシップが何よりも必要なのである。

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=後記=

もはや少し古い話かもしれませんが、バンクーバーオリンピック、それなりに盛
り上がりましたね(アメリカ人はほとんど興味を持たない分野ですが)。フィギ
ュアスケートを当地にてテレビで見ていましたが、当地の解説者は比較的偏りな
く公平な視点でコメントするので(日本でのテレビ解説はどうしても「頑張れニ
ッポン!」をベースとしたものとなりますが)、彼らが日本人選手にどういうコ
メントをしているのかという視点で見るのも、なかなか面白いです。特に、高橋
大輔選手に対する賞賛の声は高かったですね。どの選手も相当な努力をしている
のでしょうが、彼は「大けがからの復活、挑戦」というストーリーがありました
から。アメリカ人は、挑戦する人がとにかく大好きなのです。冒頭の話ではない
ですが、出る杭は打たれ強くなければなりませんけどね(笑)。それでは、皆様
におかれましては、よいホワイトデーを!【編】

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